都内の神様にちなんだ地名を集めてみた。
(写真は2011年熊野那智大社。)
地名にはその土地がそれまで積み重ねてきた歴史が残されている。
東の都という意味を込めて「東京」と名づけたり、そこにあったものから「日本橋」、「三軒茶屋」、「高円寺」などと呼ばれるようになったりする。
具体的な由来が明らかな地名は近代になって命名されたものがほとんどだが、その中でも東京都内の「神」にちなんで名付けられた地名についてまとめてみた。
王子(北区)
王子神社に由来する。熊野信仰が盛んだった鎌倉時代、当時この地を治めていた豊島氏が熊野若一王子を勧請したのが現在の王子神社だという。王子は若宮や御子神とも呼ばれ、主神(本宮に祀られる)の子や従者としての位置づけの神。特に若一王子は熊野信仰においてよく勧請される神である。
八王子(八王子市)
1571年(元亀2年)頃から北条氏照によって築城が始まった八王子城に由来している。城名は、916年(延喜16年)に牛頭天王の使者である8人の王子を「八王子権現」として深沢山(現:城山)に祀ったことに由来する。熊野町(板橋区)
熊野神社に由来する。創立は応永年間(1394〜1427年)。全国に点在する熊野神社は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)を勧請したものである。
白山(文京区)
白山神社に由来する。948年(天暦2年)に加賀国一宮である白山比咩神社から勧請を受けたもの。白山信仰は日本三名山に数えられる白山を対象とした山岳仏教がはじまりと考えられ、白山比咩神社では菊理媛命(くくりひめのみこと)=白山比咩大神を祭神としている。
愛宕(港区)
愛宕神社に由来する。1603年に徳川家康の命により創建。京都愛宕神社(愛宕山白雲寺)を勧請したもの。愛宕信仰は愛宕山の山岳信仰にはじまり、後に勝軍地蔵を本地仏、軻遇突智(かぐつち)を祭神としたことから、武神や火防のご利益があるとされた。秋葉原(台東区)
秋葉神社に由来する。明治2年(1870年)の大火の際、宮城(皇居)の敷地内から現在のJR秋葉原駅構内にあたる場所に鎮火三神を勧請したものがはじまり。民衆が火防の神として知られる秋葉大権現と混同して「秋葉さん」と呼ぶようになったことからいつしか「秋葉社」となり、1930年に移転した際に正式に「秋葉神社」となった。東伏見(西東京市)
東伏見稲荷神社に由来する。創建は昭和4年と比較的最近出来た神社。地名も1966年の町名整理で成立したもの。稲荷神は五穀豊穣の神として広く知られている。昭和に入ってからの創建は近郊農業の発展に伴ったものだろうか。天神町(新宿区)
北野神社(天神社)に由来する。当時この地にあった大友義乗の屋敷内に太宰府天満宮を勧進したことにはじまる。天神信仰は菅原道真を「天神」として信仰するものとして知られるが、本来はその字の如く「天」を崇める信仰である。延長8年(930年)、道真の怨霊が引き起こしたとされる「清涼殿落雷事件」を契機に、天神=道真として広まっていったものとされる。
番外:駅名に佇む神様
稲荷町(東京メトロ銀座線)駅を設置した1927年当時の地名、下谷区南稲荷町より命名された(現在は台東区東上野)。ここでいう「稲荷」は下谷神社を指す。
溜池山王(東京メトロ銀座線・南北線)
山王日枝神社に由来する。江戸三大祭りの一つ山王祭でも有名。
江戸氏が山王宮を祀り、文明10年(1478年)に太田道灌江戸城築城の際に川越山王社を改めて勧請したもの。
山王信仰は比叡山を対象にした山岳信仰を原点とするが、広く知られるようになったのは比叡山延暦寺を本拠地とする天台宗の布教に伴うものとされる。
鬼子母神前(都電荒川線)
駅前にある法明寺鬼子母神堂に由来する。
鬼子母神は訶梨帝母(かりていも)とも呼ばれ、毘沙門天の部下・般闍迦の妻で、多くの子を育てるために人間の子を食べていた言わば「鬼」である。その様子を見た釈迦が、戒めのために彼女の子を隠してしまった。いくら探しても見つからないので釈迦に助けを乞うと、改心をすることを条件に子を返した。こうして彼女は鬼子母神となり、子育てや安産の神として人々の信仰を集めるようになったのである。
今回はできるだけ「神様の名前」が地名に含まれているものをピックアップしたが、上記以外にも神社の門前町として栄えたことから名付けられた地名が都内には数多く存在する。
地名の由来は多くの場合理由が定かで無いものが多く、民俗学や言語学など多くの学問を横断して調べていく事が必要になってくる。そんな中ここで挙げているように由来が明確にわかっているものをとっかかりにして、奥深い「地名学」の世界に足を踏み入れていくのもアリなのかなと思う。
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